昔とは違う今
「自分を信じるな、俺を信じろ!お前を信じる俺を信じろ!」
その言葉を聞いた時、俺の世界がどれだけ広がった事だろう。
俺はこれでも自分に対して、深く理解を示していたと思う。他者に届かない言葉、
差し伸ばしても捕まる先の無い腕、どんなに蔑まれても沈黙を破れない精神。痛感させられる、無力感。
俺はとても無力なんだ。
唯一誇れるのは、穴掘りの実力が抜きん出ているという事。
自慢じゃないけど、俺は穴掘りに関しては誰にも負けない自信がある。
でも一番に掘り起こしたいものには、どんなに努力しても手が届かなかった。
掘っても掘っても掘っても堅い岩は削れず、手の皮が擦り剥けても、息が上がるほどドリルを回しても、
岩はびくりともしなかった。岩の下のものを掘り起こしたくて、どうしても岩の下から取り出したくて頑張ったけど、
その願いは結局叶えられなかった。
無力。
俺は無力なんだ。
初めて気が付いたのは、その時だった。
「シモン……おいシモン、しっかりしやがれ!」
顔に小さな痛みを感じて重い瞼を開けると、アニキが俺の頬を抓んでいる。
さっきまで感じていた焦燥と不安が消え去るのを感じながら、俺は今まで夢を見ていたんだと初めて気が付いた。
アニキが頬から手を離すと、引っ張られていた所が何だが熱く感じる。頬をさすりながら見上げたアニキの顔は、
何故か不安そうだった。
「……お、お早うアニキ」
「まだ夜だ!」
グレンハウスの中から窓を見ると月が輝き、俺達以外の皆は静かに寝息をたてていた。
確かにまだ夜だが、その夜に俺を起こしたアニキの意図が掴めない。
「シモン。お前今、怖くねえか?」
「え、今?」
そういえばアニキに気を取られている間に、さっきまで何に焦燥と不安を感じていたのか忘れてしまった。
確か嫌な夢を見たと思うけれど、どうにも思い出せない。
「うん……大丈夫」
「……そうか、そんなら良い」
俺の頬を摘んだその手で今度は頭を撫でると、アニキは満足そうにごろりと横になってしまった。
右隣にアニキが居る。
今は背中を向けているが、その大きな背中は確かにアニキだ。アニキの奥にリーロンが居て、
俺の左隣にロシウとギミーとダリー、その奥にヨーコが連なる。
左右に人が居る。
屋根はあるけど落石の心配は無く、俺の周りに眠る人は安全なんだと実感できる。
無性に嬉しくなって、理由も無く流れる涙を隠すように毛布を頭まで被った。
冒頭部分。こんな感じで続いていきます。
愛してる発言は無いですが、それよりワンランク下の発言があったりします。
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