酒か、それとも





「シモン居る?」
「……暇そうだな、ヨーコは。俺と変わる?」
「生憎私も書類と向き合うのは遠慮ね」
「じゃあ何しに来たんだよ」
「ロシウから伝言、休憩して良いってさ」
「ああ、分かった」
「あと差し入れ持って来たのよ」
「差し入れ?」
「そう、差し入れ」
 書類作業は副リーダーのロシウの方が多いのに、それが苦手なシモンにとっては、 一日に済ませる量は多く感じるらしいの。私達はシモンに紙切れと向き合って欲しいわけじゃないし、 当人だって望んでなんかいない。ロシウの配慮でシモンに届く書類は格段に数を減らしたのに、私の目から 見ても、その量は膨大に感じる。
 シモンが手を付けたからこそ、書類には価値が生まれる。
 シモンが望まないのに、周囲は彼が手を付けた物全てに価値を見出す。最近は無条件といっても良いぐらいに、 何でも。
 圧迫感、精神的圧力。
 感じない筈が無いわ。逃げ出したい気持ちを抑えて、大グレン団を維持させる為に頑張ってくれる……この姿。 私に出来ない仕事は、私には手伝えない。
「じゃーん!」
 なら、少しでも楽な時間を作ってあげたいと思わない?
「うぉおおおおぉおおぉっヨーコでかした!!良くやった!!」
 背中に隠していた瓶を両手で抱えて前に突き出すと、それに気付いたシモンが満面の笑みを向けて、 私の頭を撫でてくれた。普段のシモンは私の頭なんて撫でないのに、それに気付かないで なで続ける彼は、本気で嬉しかったんだと実感する。用意した私も嬉しくなって、頭の上の手を 好きなだけ動かしてあげた。
「宇宙に出ると、なかなか飲めなくなるものね……お酒」
 酒。
 シモンの、好きな飲み物。
「もう地上に帰るまで飲めないかと思った!」
「大グレン団を支持する人は多いってことよね、エネルギーの補給をする時お世話になった所がね、 是非シモンに……ってさ」
「何処の誰だか知らないけど、愛してる!」
 ポンッ、と。弾んだ音がシモンの自室に木霊した。
 酒瓶を開ける為には専用の道具が必要なのに、いつコツを掴んだのか、指で簡単に開けちゃった。
「ヨーコも飲むだろ?」
「良いの?全部シモンにって持って来たのに」
「ヨーコと飲みたい」
 この天然誑し。
 浮かんだ言葉を脳裏で吟味した後、首を振ってその考えを破棄した。
『この天然誑し』
 ……違う。
 本当はそんなこと…少し思ってるけど、誤魔化す為に思い浮かんだ言葉だわ。 シモンの言葉に反応する私がいる、それが未だに納得出来ない……だから、相手の悪い印象を 私自身に植え付けようとしてる。
「ほら、コップ落とすなよ」
「うん……有り難う」
 ゆっくりと喉を鳴らすシモンは、随分と大きくなった。初めて会った時は守ってあげなくちゃと思ってたのに、 いつの間にか背中を預けて、期待も預けて……そんな存在になってた。
 あまりにも、大きすぎる。
 この先彼が崩れたら、大グレン団は今度こそ壊滅するんだわ。カミナ、シモンと立て続けに 有能な統率者が続いたのは、運に他ならない。彼ら以上の逸材が、そう簡単に見付かる筈が無い。
 あんなに小さかったのに。
 今では。
 あまりにも、大きすぎる存在。
 お酒だってリーロンに禁止されてたのに、今では立派に飲めるようになっちゃって。
「本当に好きなのね」
「大好きだよ。水とも珈琲とも全然違う味で面白いし、美味しい」
「まぁ私も好きだけど」
 一口飲み込むと、じわりと身体が熱くなった。
 大きすぎる存在。
 カミナとシモン。
 私にとって……どっちの方が大きい?
「ヨーコ」
「ん?なーに?」
 シモンを見ていたら、胸が熱くなった。
 いいえ、シモンは関係無い。
 酒のせいで、まるで燃えるようだわ。
 そう、酒のせい。
 この熱さは、酒のせいよ。
「アニキを越えられる奴なんて居ないよ」
 嗚呼。
 久しぶりだった。シモンと対峙すると、いつも胸の内を見透かされたような言葉を投げ掛けられる。 最近そんなことが無かったのは、二人で居る時間が無かったからでしょうね。
「そうね、カミナが一番ね」
 シモン、あんたは何でも知ってるの?
 今の私の中の一番はカミナだって、何で断言出来るの?
 まるで。

 諦めろって言ってるみたいに聞こえるじゃない。





シモンは純粋に、誰にでもカミナは一番だと思ってもらいたい。と、思ってると良いなぁと思います!
ニアシモニアが好きですが、ヨコシモヨコも大好きです。
アニメはどっちになるんでしょうね〜……どっちともくっつかなかったら、キタンが漢を見せて欲しいです。 でも第一にシモンはカミナのものですよね。

2007,07,20

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