衣装変更
「……せ、制服?」
「はい。新政府の規律と威厳を示す為に、まず服装から入ろうと思います」
完成した総司令室の窓から、建築の進んでいるカミナシティを見下ろしていた俺は、その光景に意識を
捕らわれていてロシウの言ったことがすぐに飲み込めなかった。
「何処かで買うの?」
「作るに決まっているでしょう。というより…もう完成しました、シモンさんは今日からこの服を
来て下さい」
仕事が速い。
ラガンに乗っているよりも、ロシウはこういった仕事の方が向いているんだろう。
俺は正直な所、椅子に座っているよりもラガンの中に居た方が落ち着く性分だ。
得意不得意はあるけれど、一緒にグレンラガンの操縦をしている仲間と違う所があるのは、少し
寂しい気がする。
いや、それはグレンラガンに執着している俺の、ただのエゴだ。
完成したという俺の服を受け取って広げてみた。
「真っ白い服だなぁ……」
「新政府の総司令ですからね、凛然と高貴さを表現してみました」
よりによって俺には無縁の姿を表現するのかよ、土に汚れた平凡な姿こそが俺なのに……まるで詐欺だ。
もしかしたらロシウは地下に住む人々に、汚れの無い開放された世界を見せていきたいのかもしれない。
「青い服の方が好きなんだけどなぁ」
もしそうなら総司令官である俺が、真っ先ににそれらを姿で示す必要がある。だからこんなデザイン
なんだろうか。
「そう思って上着に青を入れました」
穴蔵とは無縁の、土の臭いも汚れもない……綺麗な服。俺は今日から、この袖に腕を通す。
何とも不思議な気分だ。
「襟元とか豪華で何か偉そう」
「貴方は偉いんですよ!それに装飾もシンプルな物にして貰ったんですからね、
初期デザインはもっと全身に装飾が施されていたんですが、シモンさんが嫌がるだろうと思って変更したんです」
「有り難うロシウ、愛してる!」
これ以上豪華な服は本気で勘弁だ、そう思うと……この白い服が簡単な作りのように感じた。
折角受け取ったんだからロシウに見て貰おうと、今着ている青い上着を脱いだ瞬間、ロシウが
顔を真っ赤にしながら慌て出した。
「ああああぁのあの、今着替えるん…ですか?」
「え、だってロシウが持ってきてくれたから」
「そそそそうですか!有り難う御座います!!」
着替えの様子を見ちゃいけないとでも思ったのか、律儀に背中を向けてくれた。別に男同士なんだから
気を使うことも無いんだけどな。
「よっし、着替え終わったよ。どうかな?」
振り向いたロシウが、目を見開いて俺を凝視した。
似合わないんだろうか。
「……シモンさん…」
「な、何!?」
綺麗な服を着るのは何年ぶりだろう。ジーハ村ではブタモグラが綺麗に出来る範囲の洗濯で、
汚れの落ちないような服をずっと着ていた。そんな俺が急にこんなにも綺麗な服を着るだなんて、
やっぱり変だろうか。
「爽やか…ですね」
ロシウの口から漏れたのは、予想外の言葉だった。
「シモンさんは服装で随分と印象が変わるんですね」
「じゃあ、これから何とか誤魔化していけそう?」
「誤魔化すだなんてとんでもないっ!!」
俺の周りをゆっくりと一週したロシウの目は何処か輝いて見えて、俺も悪い気はしなかった。
取り合えず安心して小さく笑うと、何故かロシウの顔が赤くなった。
「そんなに印象変わるか?」
「全然違いますよ!今までのシモンさんはこう、とても可愛らしかったです」
可愛らしい……?
身長のせいだろうか。
「ですが今は……とても、綺麗ですっ!!」
綺麗!?
まぁ可愛いと言われるよりは嬉しい。
凄く嬉しいんだ。
嬉しいけど。
なぁ、ロシウ。
「男に言うのって変だよ」
「はっ!すっ…済みません、つい興奮してしまって!」
「興奮?」
「気にしないで下さいっ!!」
普段は冷静なロシウがこんなにも取り乱す姿を最近は見ることが無くて、やっぱり
変化する表情を見せられると、気楽に接してくれているんだと実感出来て嬉しくなる。
「しかしシモンさん……これなら行けますよ!」
両肩を捕まれて、真剣なロシウが輝いた目を俺に向ける……こんな目を向けられたら動けない。
「シモンさんとなら新政府を運営していけると、自信が持てました!!」
「ははっ、有り難う」
「否定派の民衆も、シモンさんの姿を見れば簡単に心変わりするでしょう!」
「………いや、俺じゃなくて俺の働きを見て貰わないと」
熱意を感じる。
取り合えず、貰った服が似合っていて良かった。みっともない姿を、民衆に晒さないで済むんだからな。
「シモンさん」
「ん?」
「新政府……頑張ってやって行きましょうね!」
「ああ、これから宜しく頼むよロシウ!」
あの衣装を用意したのはシモン以外の誰かだと思います!
3部シモンは何というかこう……爽やかな感じがするので、主観に突っ走って
書いてしまいました。
2007,07,22
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