暗い闇の底 2





 真っ暗で何も見えない。
 唯一外部の情報を知らせる小さな鉄格子の光は、今まで観察した限り変化を何も示さなかった。 夕日の赤に変化するでもなく、夜の移り変わりを知らせる光の位置の変化さえもたらさなかった。
「嗚呼……」
 そうか、やっと気が付いた。
 あれは人工の光だ。
「……身体、何とか動けるようになったな」
 呂律もしっかりしている。痛みこそ鈍く残るものの、動けない状態からは離脱した。これなら、 もしかしたら自力で出られるかもしれない。
「よっと」
 独り言でも……例え自分の声でも、部屋に何かしらの変化が得られると安心する。反響する俺の声が 俺の存在を自覚させ、俺の意識を強く持たせる。そうでもしなきゃ、気が狂いそうだ。
 暗い世界。
 人工の光。
 支配された生活。
「何処のジーハ村だよ、此処は」
 地上に来てまで、地下の生活を強いられるなんて冗談じゃない。アニキが見せてくれた青い空の下で、 俺はずっと生きていくんだ。
 出よう。
 ゆっくり立ち上がると膝の関節に鋭い痛みが走ったが、我慢したら何とか立てた。 今の俺は、気合いで何とかなる。気合いを入れてもどうしようもない状態は抜け出した、これから の行動で俺の望む事が出来ない場合、気合いが足りないからだ。
 まずは暗い部屋の大きさを把握する為に、壁を伝い歩いてみた。

  ド     ン  。

 遠くで何かを叩く音がした。ロシウが来るのではないか、脳裏に暗闇の中浮かべたであろうロシウの笑顔が 過ぎる。真っ暗で何も見えなかったというのに、彼の笑顔は簡単に想像が付く。
 それだけ長い時間を共に過ごしてきたんだ。
「ぅぉおお〜〜〜〜〜〜〜いっ!シモン居るかあぁあああああーーーっ!!」
 馬鹿みたいに大きな声が一帯の暗闇に響き渡る。名前を呼ばれた事で一瞬身体が硬直したが、 この声の持ち主を理解して歓喜した。
「キッ……キタァアアアーーーーーーン!!!」
 リーロンが寄越してくれたのは、キタンだった。普段リーロンに連絡を入れると、事情を解した 彼の部下が来てくれるのだが、今回来たのはキタンだった。多忙なリーロンの側を歩いて掴まったのだろうか、 兎に角これは願ってもない幸運。
「キタンッ!キタン!キタン、キタンッ!!」
 助かる。
 俺はまた地上へ帰れる。
「シモォォオーーーン!お前どうしたんだ、何処に居るっ!?入り口の前で新政府の人間に襲われたぞ、俺!」
「総司令、今行きます!って、おい。電気とか付かねーのかよキタン」
「おまっ!年上を呼び捨てにすんじゃねぇよ!」
 キタンの会話の相手にも心当たりがある。
 ギミーだ。
 二人は戦力としても申し分ない。ロシウが誰かを差し向けても、二人が居るなら切り抜けられる。
「総司令ー!」
「ギミーか、此処だ!」
 カツカツと走る音が近づき、もう少しで目と鼻の先に響き渡る……と思った所で、急に天上が光り出した。 暗闇に慣れていた俺は目が焼かれるような錯覚に陥り、痛みに耐えるため両目を押さえ込んだ。
「うわ、まっぶし!」
「何だよ、急に明かり付いたぞ!」
 キタンとギミーも暗闇に目が慣れていたせいで急な光に苦しんでいたが、俺よりも深い闇までは抱え込んで いなかったらしく、すぐに回復したらしい。
「…………シモン、お前その格好はどうした……」
 情けない格好だろう、分かってる
 俺は誇りを捨てて助けを求めたんだ、情けない姿を晒す覚悟なら出来ている。ただ俺を慕ってくれていた ギミーの反応が怖い。軽蔑されるかもしれない。
「総司令……総司令っ!」
 心配して俺の名前を何度も呼んでくれたギミーは、声から察するに俺を心配してくれているみたいだ。 良かった、正直な所……見放されるのは怖い。
 目が光りに慣れてきて片目を開けると、絶句した表情のキタンと、まるで泣きそうな程必死に俺を呼ぶ ギミーの姿が見えた。
 そして彼らと俺の間には、太い硝子の壁。
 こんなにも太い硝子なのに外の声が綺麗に聞こえるのは、ロシウの研究の賜だろうか。 そういえば長い間一緒に生活してきたというのに、俺は最近のロシウが何をしているのか全く知らなかったな。
「シモン、お前ぇ誰に何をされたっ!?口元真っ赤じゃねえかっ!」
 キタンに言われて口に手を当てると、カサリと堅い物が当たった。
 血が固まったんだ。
 硝子に反射した自分の姿を見ると、予想以上の外見で度肝を抜いた。 唾液と一緒に口の外へと流れ出た血は、まるで俺が血を啜ったかのように存在感を示している。
「っていうか総司令、服!誰にやられたんですかっ!!」
 ロシウに破かれた服も見事な程にボロボロで、もし俺が女の子だったら陵辱された後なんじゃないかと 心配されるだろう。
「挿れられたんですかっ!?」
 前言撤回、性別は関係無いらしい。愛されているなと実感するものの、ギミーの言葉は 男の俺としては情けないものがある。 男相手でも上に立つ自信はあったんだが、そんなにも下に見えやすいんだろうか。
「ギミー、お前そんな事を一体何処で覚えたんだ。それに俺は何もされちゃいないよ……まだ」
 ははっ、と。自分で上げた笑い声に自分で驚いた。さっきまであんなにも恐怖に震えていたというのに、 キタンとギミーの顔を見たら、不安も何も消え去ってしまった。
 これが、仲間の力。
「キタン、ギミー」
 仲間になら、どんなにも情けない格好だって見せられる。
 力を貸してくれると信じているから。
 本当の仲間になら。
「助けて……助けてくれ…」
 俺は此処を出たい、外に出たい。
 こんな限られた世界で一生を終えたくは無い。
「当たり前じゃねえかシモン!」
「ちょっと待っててよ、総司令!直ぐに此処を開けるからっ!」
「……それは困ります」
 キタンとギミーの道を塞ぐように、ロシウとその部下が並んでいた。 急に明かりが付いたからどうしたんだと思ったが、ロシウが意図的に行ったんだろう。
「皆さん、少し話をしましょうか」
 いつも以上に低いロシウの声が木霊した。


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まだ続きます。
ロシシモもキタシモもギミシモも入れたくなって、こんな事になりました。
次もっと鬼畜要素いれたいです…(変態!)

2007,07,25

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