暗い闇の底 4
動け、俺の身体。
そう念じても思っても、地面に崩れた俺の身体は浅い呼吸を何度も繰り返すばかりで、
願う動作へは何時まで経っても移ってはくれない。
気合いが足りないんだ。
「ハッチを塞げ!絶対に逃がすな!」
遠くで見知らぬ声が聞こえる、ロシウの部下がキタンとギミーを止める為に奮闘している筈だ。
ガンメンやグラパールに乗らなければ、無力とでも思っていたのだろうか。二人はそこまで弱くない、
ならば俺も弱いままではいられない。
「ロ…シウ、俺達を今帰せば…厳罰は、無し…だぜ」
「僕のものになれば、さっきのような快感を何度も得られるのにですか」
全身が一瞬にして凍り付く。
表情が固まったまま動かない、作った笑顔くらい見せてつけてやりたいのに、それさえ適わない。
「僕が気が付かないとでも?貴方のことなのに?……見くびってもらっては困りますね」
嗚呼、何だかな。
俺って愛されてるんだな。
もう何を考えれば良いのかも分からなくなった。仕事に追われて、総司令官室からカミナシティを見下ろして、
皆に指示を出して……そんな生活が、本当に良いものなんだろうか。
「はははっはははっはっはっはっは!」
「…シモンさん?」
キタンとギミーがロシウの部下を……俺とは面識の無い、俺の部下を床へ崩れさせている。この光景は
俺が望んだ事だ、外へ出たいと望んだ俺が引き起こした事だ。
「…ロシウ…」
自然と笑いが込み上げた。笑う度に口の中は痛く、力の入る腹も苦しくて仕方がない。それでも
何だか清々しい。
馬鹿馬鹿しい。
「俺の全てはアニキのものだよ」
身も心も全て全てアニキのもので、俺は俺のものであり、そしてアニキのものでもある。
アニキのものをロシウに渡してたまるか、アニキのものは俺が守ってやる。
「ええ…そうですね、だからこの場所をシモンさんに与えるんです」
「嫌だ、断る」
「僕から逃げられるとでも?」
「俺を捕まえられるとでも?」
ロシウ、お前は俺には勝てない。
俺を監禁しながら新政府で働く事が出来るだなんて、本気で思っている訳は無い筈だ。
何時かは公の場に事実が浮かび上がり、そしたらお前は追放される。
いや、ロシウの存在しない新政府は壊滅するだろうから、
どうあっても働いてもらうだろうか。
そんな危険を犯してまで、そこまでして……ロシウ、お前は俺を手中に収めたかったのか。
「俺はカミナシティが好きだから、好きでもない書類の山に埋もれてる。仲間が好きだから、新政府を
一緒に支えてる。なぁ、ロシウ……」
お前が心配するように、俺は誰かの手には落ちないよ。
俺はアニキのものだから。
「俺はお前が好きだから、総司令官をやってるんじゃないか」
信頼を裏切られたと思ったけど、ロシウを好きに弄んでいた俺にも非が有る。ロシウの気持ちに
気付いていながら、それでも気付かないふりをしていた俺のせいでもある。
「……あの二人の事も、貴方は好きなんでしょう?」
「愛してるぞ、仲間だから」
「あの二人がどんな目で貴方の事を見ているか……知っていますか?」
「……知ってるよ。ロシウ、お前が俺をどんな目で見てるかも」
お前は俺の事を大切に想ってくれてる。その感情が行き過ぎて、俺の全部が知りたくて、
こんな事になったんだろう。
一人の人間を変えてしまう程に愛されるって、何だか幸せだと思わないか。
「偶になら相手してやっても良いぞ」
「嫌ですね、僕は手元にシモンさんを置いておきたいんです」
「その願いは聞けないな」
顔面に向かってきたロシウの拳を間一髪の所で受け止める。
俺の体力が追いつかず、受け止めた掌や腕、肩、足に至るまで激痛が走る。だが、受け止めた。
ロシウに向かって「どうだ」と笑ってやったら、急に足が空中に浮かび、視界が反転して地面に倒れ込んだ。
拳に気を取られて足払いを防げなかった、情けない。
「今僕に跪いている貴方が、そんな事を言っても良いんですか?」
「シモンの変わりにお前が俺に跪けこの野郎!!」
ゴリッ、と。嫌な音が響く。
顔面に向けられたキタンの拳をロシウは両手を目の前に交差させて防いだが、力ではキタンの方が勝っていた
ようだ。ロシウは腕を庇うように数歩後ろへ下がり、俺達を睨み付けている。
「有り難う、キタン」
「おうよ!」
俺は皆を愛してる。
皆も俺を愛してる。
仲間が俺を助けてくれるから、俺は自分の願う方向へと進める。
「総司令、こっちは終わりました!」
此処から出たいという俺の願いが、仲間の協力により達成される。俺を外へ出そうと
してくれる仲間が居る。
相変わらず抜けない痛みと向き合いながら、身体に鞭を打って立ち上がる。
「ロシウ!お前シモンにこんな事しておいて、タダで済むと思ってる訳じゃあねえよな!?」
「お前の覚悟は気に入ったよ、ロシウ。今後の成果に期待してるからな」
「そうだそうだ、これからも……ってシモンっ!?」
追放命令でも下すと思っていただろうキタンにとって、今の俺の言葉は想像の域を超えたものらしかった。
まあ自分に無条件の暴行を加えた相手を許す方が異常だが、新政府にロシウは欠かせない。
「俺はロシウだけの存在には成らないけどな」
不安そうに俺を見上げるギミーの頭を撫でてやると、ますます不安そうな表情を浮かべていた。
「……シモン、お前本気なんだな」
「うん……キタン、本気なんだよ」
「…………はぁ、分かったよ」
腕を押さえるロシウの側に寄ったキタンは、思い切りロシウ目がけて人差し指を向けた。
「シモンは俺が守ってやる、お前が近づきたくても近づけねえくらい、完全にお前からシモンを守ってやる!」
「それは逆にシモンさんが危険ですね……貴方のせいで」
キタンの額に青筋が立った。
「俺が二人から総司令を守れば良いだけだろ」
ギミー。俺が少し目を離した隙にすっかり心身共に大人になったんだな。頼もしくて仕方がない。
「という訳だロシウ、返事は?」
「……はっはははっはっはっ!手懐けて見せますよ、気まぐれな貴方を」
長期戦になりそうだ。
いくらお前が俺に血を流させようとも、痛みに負けて屈したりはしない。
だが、もし……。
もし俺がこの先お前に跪く事が在るなら、それはロシウ……お前が与えた快楽に、
俺が屈した時なんだろうな。
耐えてやる。
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鬼畜とは違う感じに終わりましたが、これにて終了で!
この小説は、鬼畜ロシウネタをプッシュして下さった方々に捧げます!
某方々様、有り難う御座いました!
書いてて楽しかったです(笑)
あとどんな形でもロシウとシモンは一緒に居て欲しいですー。
2007,07,28
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