私を貴方の一番に
「ニア……どうしたの、これ」
シモンが眺めているのは、食堂のテーブルで魘されながら倒れているキタンだった。
近くに皿と食べかけの料理が乗っているのを確認し、シモンは聞かなきゃ良かったと後悔した。
顔は青白く、投げ出された指先がぴくぴく動いていて、何処からどう見ても瀕死である……特に腹が。
「とっても美味しくない料理を作って、キタンさんに食べてもらいました」
正直「ニアは普通に作っても変わらないよ」と言いたかった……言いたかったが飲み込んだ。
ニアの料理を自分以外が食べた時の反応は、考えない事にしよう。それが彼女の為なのだから。
「これで私はキタンさんよりも強いですよね?そうですよね、シモン?」
「え、あ……うん、倒したから、確かにニアの方が強いね」
「はい、私の方が強いです!私はとても頼り甲斐があります!」
何を言いたいのか今一つ分からない。
他人の思考は大抵察する事が出来るのだが、ニアだけは例外だ。
「あぁ、強い……強い、ね」
彼女の趣旨がさっぱり分からない。
「頼りになりますか?シモンは、私を頼りたくなりますか?」
何故ニアはこうも頼れる自分をアピールするのだろう。
「アニキさんと私と、どちらが頼りになりますか?」
嗚呼、そういう事か。
ニアはアニキを抜きたいのか。
「うーん、ギリギリでアニキかなぁ」
相手がニアでも、ごめん……これだけは譲れないんだ。アニキを越えるなんて、誰にも出来ない。
「そ、そうですか……分かりました!ではもっと修行してきます!」
そう言って厨房へ入ろうとしたニアを必死に抱き留めた。向かう場所が厨房という事は、修行の内容は
調理だろう。その調理は人に害を成す料理を生み出すのだから、これ以上修行をしてもらっては困る。
可愛いニアに、可愛い団員を手に掛けられては困る。
不幸中の幸いだったのは、第一の犠牲者がキタンだった事だろう、キタンで本当に良かった。
キタンの犠牲は無駄にはしない!
「ニアちょっと待って!」
「はい、何ですかシモン?」
「あー……あのさ、ニアは別にそのままでも十分頼れるんだし、俺としては満足してるんだけど…」
「でも、アニキさんの次なのでしょう?」
やはり拘るのはソコなのか。
ニアがどんなに優秀でも、ニアが一人でグレンラガンを使いこなしてヴィラルに打ち勝ったとしても、
やはり一番頼れるのはアニキだ。それは、決して譲れない。
「シモン、私はどうしてもアニキさんより頼れる人になりたいんです!どうすれば良いですか!?」
そんな事を言われても困るしかない。
「ニアはどうしてアニキを越えたいの?」
「シモンの一番になりたいからです!」
これは……あまり予想していなかった。
「シモンの一番はアニキさんです、でも私がシモンの一番になりたかったので、まずはアニキさんを
越えようと思いました」
俺がまだ情けない頃はアニキを頼っていたし、またアニキを慕っていたと、きっと誰かから聞いたのだろう。
もしかしたら皆から聞いたのかもしれない。
「御免ニア、アニキを越える人は存在しないんだ」
「そう……ですか」
そんなに悲しそうな顔をしないでくれ。俺がニアをこんなにも好きだというのに、
それでは足りないというのだろうか。
どうしても、アニキの上を行きたいのだろうか。
辛くなりながらも、こんなにも頑張って一番になろうとする彼女の姿は、やはり愛おしくて堪らない。
「俺にとってニアは、俺だけのお姫様なんだけど……それじゃあ嫌かな?」
「私が、シモンだけのお姫様ですか?」
「俺だけの大切な人、俺にとってのお姫様みたいな人って意味」
身分だけなら本当にお姫様だけど、そんなものを排除した、もっと純粋なお姫様。
そう伝えたかったのだが、何とか意味が伝わったらしい。ニアの顔がどんどんと華やかになっていった。
「はい、満足です!シモンも私だけの王子様です!」
自分と王子があまりに似合わなくて寒気がするが、まぁニアの好意の方が嬉しいので黙って受け取っておこう。
「あーら、残念だけどシモンは皆のシモンよ」
俺の真後ろから突如現れたリーロンは、肩から顔を覗かせてニアに笑い掛けた。この位置は少し吃驚する。
「今度は皆からシモンを取らないと駄目ね、ニア」
「はい、頑張ります!」
リーロン、ニアに変な事を吹き込まないでくれよ。
だが時既に遅し、ニアは風の様に駆けてしまった。仲間に何を話すのか、何をやらかすのか恐ろしいが、
自分には直接の被害は無い筈なので放っておこう。
「で、リーロンは……」
「私は食堂がら雄叫びが上がったから様子を見に来たの」
キタン、そんなに叫んだのか。気が付かなくて済まなかった。
「見た通りあんな調子だよ、意識も飛んでる」
「じゃあ医務室に運びましょうか」
「運ぶの俺なんだ。まぁ、良いや。キターン、愛してるから頑張れー」
鼻血がテーブルを染めた。
ニアは何時でも全力投球なのが可愛いと思います。
あとキタンは損な役回りだと良いなぁと。
2007,07,07
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