現実を見据えて





 周囲が暗く、俺の立つ場所だけが明るい。だが日の光とは違う人工の明かりは、こんなにも堅苦しくて 冷たい。
 法廷。
 裁判官として立つロシウは端から正式な裁判を行う気が無いのだと、始まる前から分かっていた。 だってそうだろう、俺だって正式な裁判を行う気が無かったんだから。
 これは只の建前だと、どちらも納得している。
「落ちてくる月はどうするつもりだ」
「その為の避難計画は進めている所です」
 月が、落ちてくる。
 どうやったら皆を助けられる……どうする、どうすれば良い。早くその術を見つけて、皆を助けなければならない。
 考えなければ、皆を救わなければ。
「……冷静で迅速な行動を促さなければ……」
 赤色を帯びた明かりが眩しい。沈む夕日の様な赤が、まるで俺の今後を示しているかのように輝いている。
 アニキ。
 アニキなら、こんな時どうする?
 誰でも良い、少しだけ……俺に力を貸して欲しい。俺がどうすれば良いか、俺がどんな行動を取れば皆を救えるか、 一緒に考えて欲しい。
 嗚呼、誰か。
 誰か。
 ……ニア。
「………………ニアっ!」
 其処には、今望んだ人物の姿があった。
 照明から顔を落とした先には、まるで別人のような表情をしたニアが中に浮いていた。 俺が望んだから来てくれたのではないかと、違うと分かりながらも思ってしまう。 今のニアはニアではないと、分かりながらも頭が理解してくれない。
 俺が死刑になる前に顔を見に来てくれたのではないかと、願ってしまう。
「アンチスパイラルが欲しているのは、絶対的絶望。螺旋の命に生きる希望は無い」
 嗚呼この言葉がニアである筈がない、惑わされるな。
 今の彼女はメッセンジャー。
「何を言っているんだ、ニア!絶対的絶望って何だ、何でお前がこんな事をするんだ!」
 俺は何故彼女をニアと呼んでいるんだろう、分からない。彼女はニアであってニアで無い者、 メッセンジャー。待て、俺。ニアであってニアで無い者……何だ、それは誰だ。 その言葉は、目の前の彼女がニアであると思っている証しじゃないか。
「あと二週間。生への執着を抱え、苦しみながら最期の時を迎えなさい」
 メッセンジャー。
 ニア。
 なあ、お前はどっちだ。メッセンジャーであるなら、何故俺に残りの時間を告げてくれるんだ。 恐怖を与える為か、それとも無意味に足掻けと示しているのか。なあ、どっちなんだ。
 何故、俺の両頬にニアの手が添えてあるんだ。
「ぁっ…!」
 何故、俺の贈った指輪をしているんだ。
 メッセンジャーであるなら、捨ててくれれば良いのに。アンチスパイラルという存在であるというなら、 螺旋の力を持つ俺が贈ったその指輪を、捨ててくれれば良いのに。
 なあニア。
 お前はニアなんだろう。



「さようならシモン」
 あと少しで攻撃を仕掛けられたのに、ニアに気を取られて標的外の敵の動きに気が付かなかった。 堂々と正面に廻ってきた敵にぶつかり、激しい衝撃に襲われる。空中で堪えたから良いものの、もし 強力な攻撃を受けていたらと思うと恐ろしい。 何より今グレンラガンに乗っているのは俺だけではない、俺のせいで巻き添えにするなんて事は、 絶対に出来ない。
「こんなに一度に狙われたら、ギガドリル一本じゃ跳ね返せない!」
 キノンの声が震えている。
 ロシウの側では気丈に振る舞い、またどんな状況にも冷静に対処していたキノンの声が、振るえている。 俺の側にいるせいで、怖い想いをしている。
 この時初めて気が付いた、俺は仲間を危険な目に遭わせているんだと。
 守らなければ。
「一本じゃなきゃ返せるさ!」
 返さなければ大地に落ちるのはこっちの方だ、俺だけならまだしも、キノンを殺す訳にはいかない。
 仲間を殺す訳にはいかない。
 仲間を殺してはいけない。
 殺さない。
 もう、殺すものか。
 握っていたハンドルを、大きく前へ突き出した。
 緑に輝く光が綺麗だなと感じた瞬間、先程とは比べ物にならない程の衝撃に襲われた。俺の攻撃を受けた 数多の敵の破片が飛び散り、別の破片とぶつかり、爆発し、飛び散り、破片となり、爆発し。 爆発の連鎖が生まれた。
 中心地に居るのが、グレンラガン。
 耐えるんだ、気合いを入れろ、大丈夫、耐えられる、せめてキノンだけでも守るんだ。グレンの中で、 もう誰も死なせたくない。
 背中から地面に激突する衝撃を受けて、爆風で吹き飛ばされたんだと気が付いた。一瞬視界が遠くなり 意識を手放し掛けたが、ここで寝ている訳にはいかない。
「……ぅっ、キノン…無事か、キノン!?」
「…シモンさん…ええ、大丈夫です」
 無事を確認しながら外の映像を流すと、肝心な一体が無傷で残っていた。カミナシティの方へと向かう奴を 止めようにも、グレンラガンが動かない。 ペース配分を考えてと、以前言われたロシウの言葉が脳裏に過ぎる。
 恐怖で心臓が氷りそうに痛い。
「お待たせしましたぁ!グラパールの力、見せてやるぜ!」
 ギミーとダリーの引き連れたグラパール隊が、リーロンの作ったであろう新兵器を携えてやってきた。
 その鮮やかで無駄の無い方法。
 暴力的で搭乗者を危険に晒す俺のやり方と、グラパール隊の迅速で安全なやり方。 どちらが良いかなんて、考えなくても分かる。
「キノン、済まなかった」
「…ぇえ…っ?」
「……あれは……」
 俺の迷いで、仲間をこんなにも危険な目に遭わせてしまった。もし衝撃で爆弾を爆発させてしまったら、 真っ先に犠牲になるのがキノンだと、そう考えた行動さえ取らなかった。
 自覚しろ、理解するんだ。
 彼女はもう。
「俺の知ってるニアじゃない」
 ロシウ。
 お前の言う事は、確かに正しいんだ。





19話から。
シモンがロシウの考えを受け入れ始めたように思います。

今日は記念すべき「夏だ!ドリルだ!グレンラガン祭!!」でしたが、参加が出来ないので 、同日に放送された19話小説で自己満足的にお祝い!

サイト「翔」では、ニアシモニアを心から応援しております(笑)

2007,08,05

戻る