衣装変更4部編 2





「ははっ、シモンさんが流行の最先端ですか。ファンクラブが有るのは知っていましたが、 流行まで頂点に立っていたんですね」
「……俺の公式ファンクラブを立ち上げたのはロシウじゃないか」
「お陰で支持率が随分と支えられました」
 総司令に就任して数年は、机に並べられる書類に判をし、サインをするので手一杯だった。 他の全ての事をロシウに任せていたら、突然公式ファンクラブのイベントに出て下さいと 言われたんだったな、あれは本当に驚いた。
「で、服の件なんだけどな……地上で着ていた上着を元にしようと思うんだ」
 リットナーの皆から譲り受けた上着を基準に、襟に特徴を持たせ、裾の位置も腰元から膝元へと伸ばす。 俺の髪のように深い青色をふんだんに取り入れ、アニキの好んだ赤色でポイントを持たせる。
「ベルトもアニキと同じ物にしたいんだ……確か、こんな形……」
 机の上に広がる白紙の一枚にベルトを描くと、ロシウも見覚えのある形だと頷いてくれたので大丈夫だろう。 上着の絵も丁寧に描いてみると、案外上手いものだと褒めてくれた。自分でもなかなか良い出来だと思う。
 服装もアニキらしくて、俺らしくて、格好良いんじゃないだろうか。
「でも宇宙っぽくは無いなぁ」
「そういう場合は生地で工夫すると良いですよ、合皮か皮なんてどうですか?」
「ん、それ頂き!」
 皮だと表面に光沢が出るから宇宙っぽくなるだろう。同じデザインでも生地を変えれば 印象も変化するだなんて、俺一人では絶対に思いつかなかった。 こういうのは一人で考えるより、やはり協力し合った方が効率よく良いものが作れるんだな。



 順調に衣装案が練り上がっていき、数時間後……。
「駄目です、ハレンチです!シャツなりアンダーウェアなり着る方が上品だと思います!」
「上品よりワイルドを求めたいんだ! それに昔はずっと上半身裸に上着だったじゃないか、あれはハレンチだと思いながら接してたのか!?」
「カミナさんとヨーコさんのお陰で、感覚が麻痺していたんです!」
「アニキを馬鹿にするなっ!!」
「…………あの、ヨーコさんは…?」
 討論になった。
 ロシウの言い分も分かるけど、俺の服なんだから俺の筋を通したものに仕立て上げたい。 そういえば特別露出の高いアニキとヨーコの二人が居なかったんだから、ロシウの感覚が戻っていても 不思議ではないだろう。人によって人は変わると以前リーロンが言っていたが、今になって意味が 分かった気がする。
 それに案を求めておきながら、その案を完全否定するのも申し訳なくて心苦しい。 さすがの俺も自分勝手ぶりに反省した。
「じゃあ、何か格好良くなるものって知らないか…?」
「格好良くなるものですか……ふむ…」
 ペンを手に取ったロシウが軽やかに、そして汚い絵を描いた。 あのロシウだからもっと綺麗な絵が描けるのかと思ったが、どうやら絵心は俺の方が高いらしい。 それでも懸命に描いてくれているのだからと、感謝しながら黙って見ていた。
「こう……堅い素材で首とヘソを隠して下さい、こんな感じに」
「お、格好良い!」
 ロシウの画力では素材まで読み取れなかったが、首と腰辺りに付けるそれは防護機能が高そうで、 いかにも激戦の中に居るといった雰囲気が滲み出ている。まさかロシウからこんな俺向きのアイデアが 出るだなんて思わなかった。
「でも胸の辺りは露出してるけど……」
「まぁ其処はシモンさんの意見を採り入れると言う事で譲りましょう」
「有り難うロシウ!愛してるっ!!」
 上品さと礼儀を求めるロシウから、許可が出るとは思わなかった。  このデザインは逆に胸元を出していた方が格好良い。きっと俺がロシウの意見に譲歩したから、ロシウも 考えを改めてくれたんだ。
 思い切り強く抱きつき、その首もとに何度も顔を擦り寄せると、緊張したのかロシウの 身体が硬直したのが伝わってきた。 感謝の意を込めてもう二・三回擦り寄り、最後にロシウの首に手を回して熱い抱擁を交わした。 スキンシップに慣れていないロシウの事だから、きっと真っ赤になっているだろうと思い顔を覗き込むと、 赤くはなっていたがあまり翻弄はしていなかった。変わりに初めて見るような漢らしい顔を向けられ、 両肩をガッシリと掴みこまれる。
 真剣な顔で見つめられ俺の方が緊張してしまった、主導権を握られるようで何だか悔しい。
「あ……あのさ。ロシウのアイデア、防護してます…って感じで、戦闘の最中に居るみたいで格好良いよ!」
「まあ防護用に思いつきましたから……でも喜んでくれて嬉しいです。しっかり自分を防護して下さいね!」
「え、あ……ああ」
 何故だろう、ロシウと俺の防護には違いが有りそうな気がする。
「僕以外の人に今の事をしてはいけませんよ。でもシモンさんも、人の自制心を試すような行為は極力 避けて下さい。危ないですから!」
 防護ってそっちの意味だったのか。
 どうしよう、旧アダイ村で強く殴りすぎてしまったかもしれない。 そういえばあの後、ロシウはキノンの愛情に対し明確に友情と切り捨ててしまっていた。 本当に済まないロシウ、どうか許してくれ。
 だが今優先すべきは衣装製作だ。
「俺の衣装はこれで良いとして、問題は他の皆だな……大グレン団制服とか?」
「ヨーコさんは露出していなければ駄目ですね」
「……ロシウ、本当に御免な」
「あの、譲歩というものを教えてくれたのはシモンさんですよ?」
 ロシウがこうなった原因は絶対に俺だ。若干の罪悪感を感じながらも、今のロシウの方が接しやすいので 良しとしてしまおう。
「んー……まずヴィラルがアニキと似た服を着るのは嫌だ」
「では、全く別のデザインですね」
「ヨーコの服は……ヨーコに考えてもらおう、俺達が考えたらセクハラになる」
「……そうですね。では他の皆さん用の制服と、ヴィラルの服を考えましょう」
 二人で白紙に次々と案を描いていく。互いの案を評価したり、その後足し合わせながら 次々と完成へと向けていく。



 出発の日。グレンラガンの元へ向かおうと思っていた俺は、通路でマントを翻す背中を見た。 新政府の中でこんな服を着ているような奴は居ない筈だが、その身体のラインと長く赤い髪が正体を告げている。
「ヨーコ!」
 振り向いたヨーコの服装に、俺は言葉を失った。しかしそれは向こうも同じようで、彼女の指が震えながら 俺を指した。
「ねえシモン、その首と腰……何?」
「ぼ、防護用…。あの、ヨーコ…その胸の星って……」
「宇宙に行くんだもの、それっぽくしてみたの」
 ひらりと一週して見せるヨーコの動きに合わせ、豊かな胸が勢い良く弾んで目が離せない。 初めてヨーコに会った時と同じ感覚だ。
 駄目だ、俺にはニアが居るじゃないか。目の前の誘惑に負けてはいけない。
 ロシウが俺に対し散々人を誘惑するなと小言を言っていたのを思い出した。誘惑している気は無いが、 色気で他人に影響を与えるというのは、こういう事なんだろう。
 自分がこんな影響を他人に与えているとも思えないが。
「じゃあ先に待ってるわね、早くヴィラルと一緒に来なさいよ!」
「あ……あぁ」
 何というか、ヨーコのお陰で大グレン団の志気は向上しそうだ。 超銀河ダイグレンに向かうヨーコの背中を見ると、何だか広く頼りになる存在に見えた。
 ヨーコの器も、アニキ並に大きいんだろう。
「負けてられねえ!」
 漢らしさ、器の大きさで負ける気はない。
 俺を見せてやる。
 仲間に、ニアに、そしてアンチスパイラルに。

 嗚呼、やってやろうじゃないか。




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我が家の4部ロシウは、戸森さんのロシウに影響されています。

ファッションセンスはこんな感じを想定。
シモン→初めて自分の服を考えたので、若気の至り含む。
ロシウ→同上(新政府時、実はデザイナーの案にチェックを入れていただけ)
ヨーコ→7年間教師としてキッチリした服を着ていたので、ハッチャケた。

ギャグなので、お許し下さると嬉しいです……!

2007,09,20

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