衣装変更4部編





「希望の衣装はありますか?」
「いやぁ、その……今回は自分で考えてみたいんだ」
「……そうですか」
 項垂れるロシウに申し訳ないと思いながらも、やはり今回だけは譲れない。 総司令の衣装はロシウに任せてしまったが、新たな大グレン団の出発として、 心機一転の為にも服装は自分で決めたかった。
 考えただけでも胸が高鳴る。思い返してみれば、俺は今まで自分で自分の服を選んだ事が無かった。 ジーハ村では選ぶ程の選択は無く、また他人の要らなくなった服を貰って着ている方が多かった。 地上に出てから着始めた上着はリットナーの皆から貰ったものだし、総司令としての服もロシウが 新政府の規律を表現する為に生み出した物。
 現在21歳。
 生まれて初めて自分の服を選ぶんだ、これが興奮せずにいられるだろうか。
「ロシウ、服ってどういう風に決めたら良いんだ?」
 何を着ようかどんな服を着ようかと、想像しただけで楽しくて仕方がない。穴を掘るか書類に向き合うかという 生活を過ごしてきて、俺は初めて気が付いた。
 これが普通の生活だ。
 カミナシティを始めとする地上の街や村の皆が、こんな風に服を着る楽しさを味わっているなら、 それだけでも地上に出てきた意味が有るだろう。 俺が地上を手に入れる事で皆が得た楽しみに、俺自身が初めて気が付いた。
「あなたが自分で着たいと思う服にすれば良いんじゃないですか?」
「……いやほら、何でも基準ってものが有るじゃないか」
「基準、ですか……」
 考えてみれば、立場的にはロシウも同じだった。服に感心を持つような時間なんて全く無く、 今日まで補佐官として自身を新政府に費やしてくれた……今は総司令だけど。
「今まで……ロシウには苦労掛けたな」
「な、何です急に!?」
 驚きながらも「この人はやっと自分を理解してくれた」と言わんばかりの目を受けて、 やっぱりロシウは今まで苦労してきたんだと実感させられた。 俺より年下だというのに働く内容は俺よりも難解で複雑で、持っている娯楽は俺よりも格段に少ない。
「ロシウの為にも、俺……アンチスパイラルに勝つから!」
「ほ、本当にどうしたんですかっ!?」
 顔を真っ赤にしながら俺を見るロシウが、何だか何時もと違って見える。 ロシウが支えてくれたこの地上を、何としてでも守り抜こう。
 その為にもまずは衣装だ。
「ちょっと皆の事見て研究してみる」
「え、あ…服の話ですね。もし難しいようでしたら腕の良いデザイナーを紹介しますから、 最後には頼って下さい」
「ああ、有り難う。やっぱり頼もしいな!」
「いえ……シモンさんのお役に立てるなら、このくらい……!」
 そういえば旧アダイ村で拳をお見舞いしてから、ロシウは随分と丸くなった。 やっぱり漢は拳で語り合うのが一番良いんだろうか。



 新政府の中を移動しても、皆着用しているのは制服ばかりで参考にならない。 こうなったら街に出て、市民から良い服のアイデアを得るしかないだろう。 以前キヤルにファッション誌というものが有ると聞いたから、本屋でそれを探してみるのも良いかもしれない。
 益々楽しくなってきた。
 シティを彷徨くためにラガンに乗り込み、合体状態だったグレンと分離して外へと 繰り出した。ジェットを使って空を進むと、風に髪が撫でられて気持ち良い。 この移動中に、取り敢えず大まかな形だけでも決めてしまおう。
 ニアと再会する時に、彼女の印象が良くなる方が良い。
 つまりは格好良さを追求しよう。
 そして当然、アニキのようなデザインが良い。
 宇宙を連想させる、というのも良いかもしれない。
 ひとまずはこんな感じだろうか。
 カミナシティの中で一番大きな本屋の前にラガンが降り立つと、市民の視線が当然の如く集まって居心地が悪い。 苦笑いと一緒に手を振ると、女の子から黄色い歓声が上がって驚いた。昔程じゃないが 女の子に囲まれていると、 気持ち悪いやら臭いやら穴掘られるわよと言われていた頃を思い出して少し怖くなる。それが明らかに好意 を向けられるのだから、戸惑うのも仕方がないと思いたい。
 取り敢えず急ぐように本屋へ入ったが、今度は店員も含んだ視線が俺へと突き刺さる。
「シモン元総司令、何かお探しでしょうか…?」
 緊張気味に話し掛けてきた初老の店員の胸元を見ると、プレートに店長と表記してあった。俺の為にわざわざ 仕事を中断して来てくれたらしい、申し訳ないけど今は有り難い。早く済ませて、この視線の中から立ち去ろう。
「大グレン団リーダーとして良い服は無いかと思ったんですが、俺服ってよく分からなくて……まず 最近の流行を知ろうと思って来たんですけど、ファッション誌って何処にあります?」
「こっ、こちらになります。付いて来て下さいっ!」
 移動中も視線の集まるこの店で、案内を務めてくれる店長だけは俺から視線を離そうとしてくれて安心する。
「あの、こちらがお求めの雑誌です」
「へぇ〜、結構種類があるんだな」
 数あるファッション誌の中から男性用の物を手に取り中を見ると、モデル皆が見覚えのある形が基本の服を 来ていた。最も多いのは白色に金の金具、次いで青色がベースの服。
 白色がベースの服は、どう考えても。
「……俺の服と似てる…」
「それは当然です、シモン元総司令は流行の最先端ですから」
「へっ!?」
 流行を全く知らない俺が、いつの間にか流行を生み出す側になっていたらしい。青ベースの服も、新政府の 制服が元になっているのがよく分かる。頭が混乱して何を考えているのかさえ理解出来なくなった所で、 店長が世の一般知識を教えてくれた。
 有り難い事に、市民は俺を高く評価してくれているらしい。その中で最も俺という存在に近づけるのが、 服を似せるという行為だそうだ。お陰でここ数年は総司令タイプというジャンルの服が流行っているらしい。
 全く知らなかった。
「最近の若者の流行はシモン元総司令本人様ですので、お好きな服を着られるのが 一番良いのではないでしょうか?」
 確かにこれは逆に考えれば、流行に左右される事の無い位置に立っている事になる。周囲の目を気にせず、 好きな服を着れば無条件で受け入れられると言うのだ。
「有り難う店長、恩に着るよ!」
「いえ、シモン元総司令がこの本屋に来て下さっただけで感激です…!」
 握手を求められたので応えていたら、他の店員や客にも握手を求められたので全てに応えた。 サインは時間が掛かるので 店長兼お店に一枚書くと、これ以上人が集まる前に慌てて新政府へとラガンを飛ばした。
 新しい服、嗚呼どうしようか。
 激しい戦闘を控えているのに、考えるのが楽しくて堪らない。




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もう少し続きます。
色んな所でやっている新衣装誕生秘話。便乗と言いますか、ネタにしないなんてそんな勿体ない事が出来ないので、 このサイトでもやってしまいました。 他者様と被っていても、仕方がないと目を瞑って頂けたら幸いです!

2007,09,20

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