彼らに挽歌を





『これが螺旋の力かよ、大したもんじゃねえか』
 その声を最後に、巨大な爆発音がキタンの笑い声を掻き消した。轟音がキタンの声を消し去ってしまったのではなく、 キタンそのものを消し去った事を理解するのは簡単だ、 画面からキングキタンの反応が消えたんだから。
 キタンが、消えた。
 骨さえ残らずに消えてしまった。それは死という結果と同等の意味を持っているのに、何故だろう……酷く 恐ろしい。
 アニキは綺麗な姿のまま死んでいった為、埋葬という弔いをする事が出来た。墓に眠るアニキに安らかな 時と空間をと願いながらも、その墓に何度励まされた事だろう。
 では、キタンはどう弔えば良い。
 亡骸が無い今、アニキと同じように接する事は出来ない。キタンだけじゃない、一瞬にして宇宙の一部と なってしまった仲間達は、皆遺体さえ残らなかった。
 消えてしまう事が悪い事だとは思わない。アニキの様に墓を建てた所で、忙しなく墓を訪れては安眠を 妨げる行為を、俺は何度も繰り返してしまった。これはアニキの為の墓と、生き残った者の為の 墓でもあるからだろう。
 墓というのは弔いと、残された者の両方の為に与えられたもの。宇宙に散っていった皆は、本当に 安らかな眠りにつけるのかもしれない。
 嗚呼駄目だ。
 俺は何を考えているんだ。
『ブーッ、ブブブ、ブーーーーッ!』
「……ブータ…」
 暖かな螺旋力が外から俺を包み込んできた、もしかしたらブータが俺を慰めてくれているのかもしれない。
 少し、整理しよう。
 悲しむ訳じゃない。今此処で俺が少しでもそれを皆に伝えたら、俺に命を託してくれている皆が不安に駆られ、 志気の低下を招く。少しでも気力が低下したら、その時点で俺達は終わりだ。
 俺は決して、弱音を吐く事は許されない。
 それでも……数秒くらいなら気を抜く事を許して欲しい、その後に気合いを入れるから。 だから、数秒だけ干渉に浸る事を許可して欲しい。キタンは俺にとって、それだけの人物なんだ。
 アニキに似ていると感じたのが、初めて会った時の印象。 熱くて、勢いがあって、人を引っ張る魅力があって、気合いに満ち溢れていた。
 そしてアニキの死後という、大きな存在を失った直後に務めた、大グレン団二代目リーダー。 本人の口から聞いた事は無かったが、これは想像以上に重圧を感じるものだっただろう。
 皆が心身共に疲労の限界を迎えた状態でのアニキの死は、さらに精神に衝撃と負荷と絶望感を与えた。 各自が回復をしなければならない時期に、キタンは自分の回復と、 他人を纏め上げるリーダーという二つの役割を熟した。
 凄いと思う。
 俺なんて、他人に当たり散らす事しか出来なかったというのに。
『……シモン大丈夫か?』
『……ははっ。どうしたんだよヴィラル、今日は随分優しいな』
 そんな凄い人が俺を認めて、大グレン団リーダーの座を託してくれた。
 新政府でも俺の事を支えてくれたし、互いに愚痴を言い合ったりして楽しんだ事もあった。 それだけじゃない、思春期や青年独特の身体の変化や成長を教えてくれたのもキタン、酒や博打という存在を こっそり教えてくれたのもキタンだ。
 俺は生涯、カミナ以外をアニキと呼ぶ事は無い。
 それでも確かに。
 キタンは俺の。
 兄だった。
「……こんな所で、終わって堪るか」
 彼の死を、無駄には出来ない。
 彼らの死を、無下には出来ない。
 此処まで来るのに、一体どれだけの犠牲を払っただろう。ここで倒れたら、彼らは何の為にその命を散らしたか 分からなくなる。
 アニキの死も、無駄になる。
 彼らに対する最大の弔いは、アンチスパイラルに打ち勝ちニアを救出して、俺達の地上を手に入れる事。 その為なら、俺は何だってやってやる。
「変形だっ!」
『その言葉、待っていたぞ!』
 グラパール隊。
 ゾーシィ、キッド、アイラック、マッケン、ジョーガン、バリンボー。
 キタン。

 アニキ。

 嗚呼、俺はやってやる。





キタンはシモンにとってもう一人のアニキだったと思います!
漢キタンに黙祷!
あと考えると多い、意志半ばで散っていった皆にも黙祷!
テッペリン戦で竜巻に突撃して散っていった彼らにも黙祷!(遅っ!)

2007,09,17

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