言わない





 なあヨーコ、俺は昔ヨーコの事が好きだったんだ。

 今は違う。
 でも、だからこそ。
 笑い話として言いたくなる。
 昔好きだったんだ、知ってたか?
 そうやって、さ…笑いながら言いたくなるんだ。
 ヨーコの言葉が目に浮かぶよ。
 バーカ。
 きっと、そう言うんだろうな。
 やっぱり、笑いながら。

「どうしたのよシモン」
「いやぁ、俺はやっぱりアニキが大好きだなって」
「そんなの主張されなくても皆知ってるわよ。シモン以上にカミナを好きな人なんて、 居るわけ無いじゃない」
 それは嬉しい事を聞いた。
 自分の感情が他者の誰よりも上を行くという意見は、 外界から受けるだけで現実味を持つ。俺が誰よりもアニキを慕っていると、事実として実感してしまう。
 感情という曖昧な存在を明確に意識するのは、やはり他者の存在だった。
「カミナ以上に、シモンを好きな人も居ないけどね」
「さぁ、それはどうかな」
 もしそうなら、それ程嬉しい事は無い。でもどうだろう……聞かなければ分からない、 本人の口から聞き出さなければ確証の取れない感情は、本人に二度と会えない状況下での追求は不可能である。
 確証が取れなければ、信じられない。
「カミナが一番好きだったのは、ヨーコかもしれないよ」
「……何で、そう思うのよ」
 何でって……見たからさ。
 二人の、結ばれる瞬間を。

 だが、言わない。

 目撃した事。その時、俺がヨーコを好きだった事。
 この二つを知れば、ヨーコはこう思うかも知れない……私のせいでカミナは死んだのか、と。
 あの時ヨーコが想いを伝えなければ、俺は精神が不安定になる事も無く、結果アニキは生き残ったかもしれない、と。
 そう、思うかもしれない。
「さぁ……どうしてかな」
「その様子だと、私の知らない何かも感づいてるのかしら?人の事は何でもお見通しよね、シモンって」
「そうでもないさ、それに昔は皆の考えなんて全く分からなかったよ」
 複数の出来事が重なり合って生まれる事象なのだから、一つのヨーコという道筋が、 大きな出来事を嘆く必要は無い。原因の一つではあるけれど、それだけが全てでは無いのだから。
 ならヨーコ……ヨーコは何も悔やむ必要なんて無いんだ。
「シモンってもしかして、私の事好きだった?」
 ドキリとする。
 驚いた。
 だが驚きばかりで、動揺を誘うまでには至らなかった。ヨーコのその言葉は、俺にとってそんなにも 小さな言葉になってしまった。あの時、アニキがまだ生きていた頃に聞いたなら……どれだけ自分を 見失って慌てただろう。
「……そうだよ」
「…………え?」
「大切な仲間なんだ。今でも好きだよ、愛してる」
「あ、そういう……何だ吃驚した。シモン程愛を振りまいている人に言われても、説得力無いなぁー」
「酷いな、全部本心なのに」
「まぁ……確かに本心よね、全部」
 アニキが死んだのは、ヨーコのせいじゃない。
「一番言いたい人に言えなかったから、言える人には今の内に言っておこうって俺の教訓なんだ」
「そう……良いわね、それ。私も見習おうかしら」
 ヨーコは、小さな原因の一つ。
 最大の原因は、皆が口にせずとも思っている。
 その、一つで良い。
「シモン、愛してるわよ」
 ヨーコは、何も苦悩する必要は無い。
 俺の仲間が、後悔と苦渋に溺れる必要は無い。
「俺って愛されてるなぁ」
 アニキが死んだのは、俺が不甲斐なかったせいだ。

 命がけで俺を殴ってくれたアニキの愛が恋しい。





8話Aパートのあのシーンは、大好きなカミナとヨーコの二人が、一瞬で別世界の人物になってしまったのが 寂しくて悲しかったら良いなぁと思います。こう…二人が一瞬で消え去って、一人取り残された……みたいな心境!
こんな内容でも、シモンは受けで…!

2007,07,07

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