忘れられた二代目
「俺はそんなに情けないリーダーだったかよ!?」
「キタン、俺はそんな風には思わないから」
「どいつもこいつも、初代はカミナ、二代目はお前と言いやがる。別に仕方ねえよ?大物が続いてるんだからよ。
でもよ、お前やカミナ程じゃねえし期間も短かったが、俺だってリーダーだったんだぜ!?
天下の大グレン団のリーダーだった頃が有るんだぜ!?何で頭から否定されなきゃならねってんだ!」
「あー…お、落ち着いてキタン」
増員された大グレン団の新人教育を担当しているキタンが、幹部レベルの人間にしか出入りの出来ないエリアへ
やって来ると、シモンを見つけるなり感情を爆発させた。怒りよりも嘆きの方が色濃く見える。
これは……相当言われたらしい。
「俺は三代目で、キタンが二代目なのになぁ」
「だろ?そうだろ?なのに奴らと来たら即答で否定を入れてきたんだぜ!?」
キタンが大グレン団の歴史を説明していたのか、自慢がしたくて話したのかは分からないが、それでも
確かな事実を元部外者に完全否定されては、黙っていられないだろう。
俺も「大グレン団初代リーダーはシモンだろう?」なんて言われた日には、何をしでかすか分からない。
「ヨーコもロシウも知ってるし、ダヤッカやキッド達だってちゃんと覚えてるだろうから……それじゃ駄目かな」
「……不満はねえが満足しねえ」
これは相当凹んでいるようだ。
「キタン……今までも結構気にしてたんだ?」
キタンは二代目リーダーだという過去を無理矢理に主張しない。今までだって、
そんな素振りを見せさえしなかった。それが今回この騒ぎにまで発展したのだから、やはり心の何処かで燻るものが
あったのだろう。
案の定、分かりやすい程の狼狽を伺えた。
「べべべべ別に俺ぁお前に不満なんざ何もねえからな!今更リーダーなんて務められねえし!」
「っははっ!まぁ、キタンあっての今の俺だから、その辺りは誇り持って欲しいな」
「……そういう恥ずかしい事を真面目に言わないでくれや」
顔を赤くするキタンが面白くて、俺は手で隠された顔を覗き込むと、
さらに赤くなったキタンがまた別方向へ顔を背けた。らしくない様子がまた何とも面白くて興味を持ってしまう。
「お前って、妙に成長してねえ所あるよな」
「成長してないから、ほら頭とか」
「戦闘ん時のお前の頭はどんだけの構造してんだってくらい、バカでかい数字の計算や、
俺じゃ不可能な作戦とかやってのける癖によー」
そうなのだろうか、自分ではよく分からない。
純粋にこうすれば良いだとかあれが最良だと思う指示を出したり、実際に自分で熟しているだけなのだが、
何故かそれが団員や仲間からは高い評価を受ける。実感が持てないが、まあ出来ないよりは出来た方が良いに
決まっているので、この際気にしないでおこう。
「なあ、キタン。キタンがリーダーやってた時、その位置が少し怖かっただろう?」
「……あぁ!?」
「でも懸命だった。まぁ、敵の罠に掛かる事もあったけど、それも懸命だったからこそ……だ。
アニキの次のリーダーは、想像以上に重かっただろう?」
「……」
「そんな中で皆を率いたキタンは、凄いと思うんだけど」
ポンと頭に乗る重さを感じると、それは俺の髪をくゃくしゃと撫で始めた。子供じゃないんだからと
言って抵抗しようかとも思ったが、まあ相手の好きにさせておこう。
久々の感覚は、俺としても懐かしい。
「お前はよ……」
手の動きが止まった。
「欲しい言葉をくれんだよな、何時も」
今度はポンポンと頭を軽く叩かれた。俺の頭に乗せた手を、どうすれば良いか分からなくなっているらしい。
後先を考えない所はまさにキタンだ。
「アニキが死んだ後って、難しい時期だっただろう?皆が心身共に疲労の限界だったから、
アニキの件は、さらに精神を崩れさせた。各自が回復しなきゃならない時期に、キタンは自分の回復と、
他人を纏め上げるリーダーの役割の二つを熟したんだ」
「……シモン」
「それって凄くないか?」
俺はあの時立ち直る事さえ大変だった、見限られるのも時間の問題だった。
俺には出来ない事を、キタンはやってのけた。
「俺はキタンをそう思ってる。その時期を知らない奴には実感の持てない話だろうけど、
一緒に過ごした俺はちゃんと知ってる……それじゃあ、まだ不満か?」
キタンは自分の行動の評価よりも、その行動は取るべきものだったか否かに不安を持っていたのだろう。
自分がリーダーとして率いて良かったのか、また率いながら行った内容は良策だったか……後悔の
許されない、他者という仲間を巻き込む立場というのは、思いの外恐怖が付きまとう。
「立派な、二代目リーダーじゃないか」
評価されない筈が無い。他の誰もが認めなくても、俺は絶対にキタンを認める。
「シモン!!」
突然キタンに大声で名前を呼ばれた。
耳の奥が痛くなったが、やっと元の調子が戻ってきたようなので安心した。これで
落ち込むという、らしくない姿のキタンを見なくて済む。
「好きだ、お前が本当好きだ!!」
「有り難う……俺も愛してるから、この手を退けて欲しいんだけど」
頭の上にあった筈の手は、いつの間にか俺の片手を握りしめていた。
この俺が気付かなかった……何という早業だろう。
「シモン、俺にしておけ!」
「……な、何の話か分からないから、ほら…」
「はい、そこの人!ハレンチな話題は禁止です!!」
俺からキタンを引き剥がしたのは、ロシウだった。息が切れている様子を見ると、キタンの大声を
聞いて駆けつけてくれたらしい。素晴らしいぞロシウ、流石は副リーダー!
「さぁ、シモンさんっ!」
「有り難うロシウ、愛してる!」
俺は脱兎の如く駆け出した。
自室に戻る途中、自分の頭の上に手を置いた。自分以外の誰かに頭を撫でられるだなんて、
何年ぶりだろう。
昔と変わらず、俺は今でも頭を撫でられるのが好きらしい。
私の中では、キタンは立派な二代目リーダーなのですが……原作とかどういう位置に居るんで
しょう……得にリーダーの経験。黒歴史になってないと良いなぁと思います。
2007,07,07
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