さようならお姉様達
私も、こうなる筈でした。
もう少し、あと少しシモンの助けが遅かったら……私は、私の姉妹達と同じ結末を迎えていました。
「ニア、大丈夫……辛くない?」
「シモン、有り難う」
辛いのは、シモンの方でしょう。
皆を、日の当たる所で、ちゃんとしてあげたい。
そんな我が儘を聞いてくれたシモンの方が、ずっと辛い筈です。皆を暗く冷たい箱から出し
てあげられるのはシモンの力だけなのですから、良い気分はしないでしょう。
「シモン……有り難う」
助け出せるのがシモンだけというのは、つまり箱の中の姫と一番最初に対面を果たすのが……シモンだという事。
「よっ…と……キタン、この子も御願い」
「……おう、任せとけ」
シモンは皆を一人一人、この空と大地の広がる地上へと解放してくれる。そう……一人一人、丁寧に。
真っ先に対面を果たすべきは私であるというのに、その役目をシモンに全て押し付けてしまっています。
箱を開いた時に飛び込む皆の姿……何も知らず安らかに眠っている、そ
の最期のままの姿を最初に見るべきは、この私だというのに。
「ニア。ニアはお姉さんと会った事は有るの?」
一人でも辛いでしょう。
あなたは心優しいもの。
それなのに。
こんなにも多くの救出を任せてしまった。
「有りません……私は自分が一人っ子だと思っていた程です」
「そうか」
カチリ、と音がして、また新しい箱がその内部を見せる。
彼女の顔を見たシモンがほんの一瞬目を閉じるのは、きっと……祈りを捧げてくれたからでしょう。
「知っている顔は……いや、何でもない」
「辛いでしょうね、知っている人が居たのなら」
「……ごめん、気にしないで」
私が皆を、彼女達を見た時の衝撃を心配してくれるのですね。
シモンは大切なアニキさんを亡くして、とても大きな悲しみを受けたというのに……私の心配を、
してくれるのですね。
「私は大丈夫です、シモン……むしろ嬉しいのです。歴代の姫達は、これで束縛から解放されました。
シモンは私の姉妹達を助けてくれたんです……有り難う」
箱の中の姫が一人、また運び出される。
また一人、救われる。
「皆、とても綺麗な顔をしています……シモンに、助けられたからです」
「そう言ってもらえると嬉しいよ」
苦笑。
小さく、苦く笑うと……今度は私の方を向いて、目一杯笑ってくれました。夕日に染まった髪が、頬が、服が、
体が、とても大きくて頼り甲斐のある姿を映し出しています。
シモンは真っ青な空のような人だと思っていましたが、夕日に染まる真っ赤な髪を見て……私は実感したのです。
「シモンは、空です」
「え?」
「青い空の色と、赤い空の色……シモンは空そのものを、その姿に持っています。だから、シモンは空です」
きっとシモンは、もっと広い空の色にも成るのでしょう。
夜空の色にも。
夜空のもっと上にある、深い色の空にも。
「ニア、今のニアも真っ赤だよ。普段のニアは繊細な淡い空の色でとても綺麗だけ
ど……今は赤色を纏って凄く力強い。お姉さんを送り出す、強い姿そのものだね」
「私も、空のようですか?シモンと同じ、空のようですか?」
「俺と違う空だけど、でも同じものかな」
嗚呼シモン。
私は自分を、シモンと同じ存在と思って良いのですね。
「ねえシモン、私はお姉様達の誇りとなるよう……生きていきます」
「うん。俺も……アニキの誇りになるように生きていくよ」
一人。
また一人。
何年。
何十年。
何百年の束縛された歴史を。
皆を。
お姉様達を。
……シモン。
解放してくれて。
助けてくれて、有り難う。
ニアのお姉さん達の遺体なんですが……こう、そのままの姿で眠るようにお亡くなりになっているのか、
白骨化しているのか激しく気になります。
どっちにしろ辛い…!!!
2007,07,09
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